事前確定届出給与(役員賞与)は役員退職金に影響する?


社会保険料を節約するために年収は変えずに、毎月の役員報酬(定期同額給与)を低めに設定し、役員賞与(事前確定届出給与)を高めに設定することがあります。

賞与については、健康保険の標準賞与額の上限573万円、厚生年金保険料の上限150万円の上限がありますので、その上限を利用して社会保険料を節約する方法です。

例えば、代表取締役の年収を2,160万円とします。

役員報酬を(1)毎月180万円とせずに、(2)毎月の役員報酬を20万円に設定し、役員賞与(事前確定届出給与)を年1回1,920万円に設定することにより、社会保険料の負担を節約(832,230円)できます。

社会保険料の節約額

(1)毎月180万円の代表取締役の社会保険料負担額

136,759円/月(沖縄県協会けんぽの社会保険料額)×12カ月=1,641,108円

(2)毎月の役員報酬を20万円に設定し、役員賞与(事前確定届出給与)を年1回1,920万円に設定

29,420円/月(沖縄県協会けんぽの社会保険料額)×12カ月=353,040円・・・①

役員賞与(1,920万円)に対する社会保険料:健康保険料318,588円(573万円×11.12%×1/2)+厚生年金保険料137,250円(150万円×18.30%×1/2)=455,838円・・・②

合計①+②=808,878円

(1)-(2)=832,230円

上記のように事前確定届出給与を利用し、年収は変えずに、社会保険料を節約することがありますが、役員報酬の支給額(不相当に高額な場合は除く)や支給方法は会社の自由ですので、法人税法上は特に問題ございません。

ただし、毎月の役員報酬を減額させると役員退職金や弔慰金等に影響する可能性がありますので、注意が必要です。

毎月の役員報酬を減額させると役員退職金に影響?

役員退職金は一般的に功績倍率法を利用します。

役員退職金を功績倍率法で計算する際は下記の式となります。

役員退職金の額=「最終報酬月額」×勤続年数×功績倍率

計算式に「最終報酬月額」が入っていますので、退職時点の毎月の役員報酬が低額である場合には役員退職給与の額が低く計算されることになります。

単純に上記の例であてはめて計算すると、勤続年数25年、功績倍率を3倍として計算した場合、

(1)最終報酬月額180万円×25年×3倍=1億3,500万円

(2)最終報酬月額20万円×25年×3倍=1,500万円

となってしまい、役員退職金に大きな差が生じてしまいます。

(2)の役員報酬20万円では「最終報酬月額」が当該役員のこれまでの功績を適正に反映していない場合があります。その場合は事前確定届出給与を支払って退職しているのであれば、事前確定届出給与を12分の1した金額も含めて「最終報酬月額」を計算しても問題ないという見解もあります。

ただし、「最終報酬月額」に、実際に支払った事前確定届出給与を含めて計算してよいという見解を国税庁が公表していないことや、支払った事前確定届出給与を「最終報酬月額」に含めることを認めた裁決や判例がないので、税務調査で否認されるリスクもあります。

事前確定届出給与を支給せずに退職した場合は、役員退職金の損金算入が否認された裁決事例があります。

事前確定届出給与を支給せずに退職した場合は、事前確定届出給与(役員賞与)を「最終報酬月額」に含めて計算することは実務上、認められないと考えた方が良さそうです。

税務調査等で争いを避けるには、役員の功績を適正に反映させた毎月の役員報酬を設定し、事前確定届出給与を含めていない「最終報酬月額」を利用して功績倍率法を適用することが今のところ無難であると考えられます。

社会保険料を節約するために毎月の役員報酬(定期同額給与)を低めに設定した場合には、役員退職金や弔慰金等に影響する可能性があり、役員退職金の損金算入が認められず思わぬ税負担となることがありますので、ご注意ください。

免責

上記内容は、投稿時点での税法その他の法令に基づき記載しています。

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本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家にご相談の上行ってください。

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