不動産所得の確定申告 事業的規模か業務的規模に注意!
不動産貸付業(個人)は①事業的規模か②業務的規模かによって税務上の取り扱いが異なります。
①事業的規模でしたら不動産所得でも事業所得に近い扱いがなされ、②業務的規模でしたら雑所得に近い取り扱いがなされます。
①事業的規模か②業務的規模かは貸付規模によって異なります。
所得税基本通達26-9では「社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべき」と規定されておりますが、実質的に判定することは難しいことから実務上は下記の要件(形式基準:5棟10室基準)のいずれかを満たした場合に原則的に①事業的規模として取り扱われます。
・一戸建てなら概ね5棟以上
・貸間、賃貸住宅(アパート等)では独立した室数が概ね10室以上
貸室と貸家を両方所有している場合は?
貸室と貸家を両方所有している場合は、貸室2室を家屋1棟として換算し、判定いたします。
例えば、独立家屋2棟と貸室6室を所有している場合は、
2棟+(6室÷2)=5棟で①事業的規模と判定します。
共有持ち分の場合は?
共有持分で建物を所有している場合は、共有持分で按分した棟数や室数で判断しません。
例えば、10室のアパートを兄弟で2分の1ずつ共有で所有している場合は、1人当たり10室として判定し、兄弟それぞれで「事業的規模」で不動産貸付業をおこなっていることになります。
貸地の場合は?
月極め駐車場などの貸地の場合は概ね5件で「1室」とみなされますので、駐車場を概ね50台以上貸し付けている場合は原則として①事業的規模となります。
例えば、貸室7室と土地の貸し付けが15件ある場合は、
7室+15件÷5=10室で「事業的規模」と判定します。
空室がある場合は?
空室がある場合でも、広告・募集をかけているなど、いつでも貸せる状態であれば1室としてカウントできます。
①事業的規模と②業務的規模の具体的な税務上の取り扱い
1.事業専従者給与
①事業的規模の場合
青色申告者は家族従業員に支払う適正給与額について不動産所得の必要経費に算入できます。
事前に税務署に「青色事業専従者に関する届出書」の提出が必要です。また、実際に給与を支払うことが必要です。
白色申告者は配偶者で最大86万円、その他の家族は1人につき最大で50万円を必要経費に算入することができます。 税務署への事前の届出や実際に給与を支払うことは不要です。
専従者について、必要経費に算入すると配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除の対象にはならないのでご注意ください。
②業務的規模の場合
事業専従者給与は認められておりませんので必要経費に算入できません。
2.青色申告特別控除の適用
①事業的規模の場合
青色申告者が正規の簿記の原則(複式簿記)により記帳しており、それに基づいて貸借対照表・損益計算書を作成して確定申告書に添付をすれば、青色申告特別控除として、65万円(※1)または55万円の控除が認められます。
(※1)e-taxによる電子申告又は電子帳簿保存が要件となっております。
②業務的規模の場合
青色申告特別控除は10万円しか認められません。
不動産所得以外に事業所得があり、事業所得について、正規の簿記の原則(複式簿記)により記帳しており、それに基づいて貸借対照表・損益計算書を作成して確定申告書に添付をすれば、青色申告特別控除として、65万円(※1)または55万円の控除が認められます。
この場合、青色申告特別控除は不動産所得から控除し、控除しきれない場合はその残額を事業所得から控除します。 (※1)e-taxによる電子申告又は電子帳簿保存が要件となっております。
3.固定資産の除却等の損失(災害による場合は除く)
①事業的規模の場合
固定資産の取り壊しなどの除却等をし、損失が生じた場合は全額を必要経費に算入できます。不動産所得が赤字になった場合は他の所得と損益通算ができます。
所得金額が赤字になる場合、青色申告書は3年間赤字を繰り越すことができます。
②業務的規模の場合
除却等の損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入することができます。資産損失の結果、不動産所得がマイナスになることはありません。
①事業的規模②業務的規模にかかわらず資産を売却(譲渡)するための取り壊し費用は不動産所得の必要経費ではなく譲渡所得の譲渡費用となりますのでご注意ください。
4.回収不能になった賃料
①事業的規模の場合
賃料が回収不能になった時点で、その年分の必要経費に算入できます。
②業務的規模の場合
賃料が回収不能になった場合、その収入はなかったものとして取り扱われます。
過年度の不動産所得に計上した家賃が回収不能となった場合、その家賃収入を計上した年分まで遡って所得計算をやり直す必要があります。
5.延納利子税の必要経費算入
①事業的規模の場合
延納した場合の利子税について、必要経費に算入できます。
②業務的規模の場合
延納した場合の利子税について、必要経費に算入できません。
(参考条文等)
所得税基本通達26-9
(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)
26-9 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。